【学会参加報告】第56回日本口腔インプラント学会学術大会〜「噛める」ことから、健康寿命を考える〜
2026.09.21
こんにちは。千葉みなとのかいり歯科クリニック、院長の戸田智大です。
2026年9月18日(金)から20日(日)にかけて、東京国際フォーラムで開催された「第56回 公益社団法人日本口腔インプラント学会学術大会」に参加してきました。
日々の診療で行っているインプラント治療について、学術的な視点から改めて学び直し、知識を更新するための参加です。歯科医療の考え方や技術は、年々変化しています。今の治療に満足せず、学会や研究会、セミナーで新しい知見に触れ、科学的な根拠に照らして自分の診療を見直していく。その積み重ねを、当院では大切にしています。
今回の大会テーマは「国民から信頼される口腔インプラント治療 ―健康寿命延伸に果たすインプラントの役割―」。そして大会では、このテーマに沿った「東京宣言」が示されました。
この宣言を読んだとき、前回のブログでお伝えした「噛んで食べる毎日を支えたい」という思いと、深く重なるものを感じました。今回は、その内容を患者様向けにご紹介しながら、私たちが目指している歯科医療についてお話しします。
前回の記事【セミナー】骨が足りない方のインプラント治療と、その先の健康寿命へ
日本口腔インプラント学会が示した「東京宣言」
第56回 公益社団法人日本口腔インプラント学会学術大会で示された「東京宣言」。インプラント治療を、口腔機能の回復と健康寿命という視点から捉えることが示されています。東京宣言は、日本口腔インプラント学会の理事長と大会長の名のもとに示された、学会としての考え方です。宣言のタイトルは「国民から信頼される口腔インプラント治療 ―健康寿命延伸に果たすインプラントの役割―」。内容を、患者様にもわかりやすい言葉で整理すると、次のようになります。
東京宣言のポイント(院長による要約)
- 超高齢社会で健康寿命を延ばすためには、歯を失うことによる「食べる・飲み込む・話す」といった口の機能の低下を防ぐことが欠かせない。
- インプラント治療は、失った歯を補うだけでなく、口の機能の回復を通じて、栄養バランスの改善、誤嚥性肺炎の予防、認知機能低下リスクの軽減、社会参加意欲の向上など、全身の健康維持に寄与する可能性がある。
- 特に高齢の方にとって「しっかり噛める」ことは、生活の質(QOL)を左右する大切な要素である。
- インプラント治療を担う歯科医師には、科学的根拠と高い倫理観に基づき、安全性と質を担保した医療を提供する責任がある。
宣言の中で挙げられている栄養や肺炎、認知機能などへの効果は、「可能性を有している」と表現されています。インプラントを入れれば必ずそうした効果が得られる、という意味ではありません。
私がこの宣言で大切だと感じたのは、健康寿命への期待と同時に、「科学的根拠」「倫理観」「安全性と質」という言葉で、治療を行う側の責任が明記されていたことです。
「噛めること」は、なぜ健康寿命に関係するのか
健康寿命とは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく過ごせる期間のことです。
お口には「食べる(噛む)」「飲み込む」「話す」という、生活に欠かせない働きがあります。これらをまとめて「口腔機能」と呼びます。歯を失ったり、口の周りの筋肉が衰えたりすると、この口腔機能が少しずつ低下していきます。
口腔機能の低下と全身の健康との間には、次のような関連があることが報告されています。
- 口の機能が衰える噛みにくい、むせる、口が乾く、滑舌が悪くなる
- 食べられるものが変わる硬いものや繊維の多い食品を避け、やわらかく食べやすいものに偏りがちになる
- 栄養が偏る・不足するたんぱく質や野菜などが不足し、「低栄養」につながることがある
- 筋肉量や身体の機能が落ちる加齢などで筋肉量や筋力が低下した状態を「サルコペニア」と呼びます
- フレイルとの関連心身の活力が落ち、介護が必要になる手前の状態を「フレイル」と呼びます
- 生活の質や健康寿命への影響
ただし、この流れは一本道で必ず進むものではありません。体力の低下や病気がきっかけで、お口の機能が落ちることもあります。それぞれが互いに影響し合い、関連していることが報告されている、と理解するのが正確です。
「オーラルフレイル」という考え方
2024年に、日本老年医学会・日本老年歯科医学会・日本サルコペニア・フレイル学会の3学会が合同で示した考え方では、オーラルフレイルは「口の機能が健康な状態」と「口の機能が低下した状態」の間にある状態とされています。そして、オーラルフレイルがある方は、将来のフレイルや要介護認定、死亡のリスクが高いことが報告されています。
大切なのは、オーラルフレイルは「改善が可能な状態」とされていることです。早めに気づき、対策をとることに意味があります。
オーラルフレイルのセルフチェック(OF-5)
- 自分の歯が20本未満である
- 半年前と比べて、硬いものが食べにくくなった
- お茶や汁物などでむせることがある
- 口の渇きが気になる
- 普段の会話で、言葉をはっきり発音できないことがある
5項目のうち2項目以上に当てはまる場合、オーラルフレイルに該当するとされています。
出典:日本老年医学会・日本老年歯科医学会・日本サルコペニア・フレイル学会「オーラルフレイルに関する3学会合同ステートメント」(2024年)
失った歯を、そのままにしないこと
高齢者を対象とした国内の追跡研究では、歯がほとんどなく入れ歯も使っていない方は、20本以上歯がある方に比べて、認知症を発症するリスクが高かったことが報告されています。一方で、歯が少なくても入れ歯を使っている方では、そのリスクが低い傾向も示されています。
これは「関連」を示した研究で、歯を失ったこと自体が原因だと証明されたわけではありません。それでも、失った歯をそのままにせず、噛む機能を補うことの意味を考えるうえで、大切な知見だと考えています。そして、その方法はインプラントに限らず、入れ歯やブリッジも含まれます。
インプラント治療は「歯を入れること」がゴールではない
インプラントは、顎の骨に人工の歯根を埋め込み、その上に歯をつくる治療です。骨に固定されるため、ぐらつきが少なく、噛む力を受け止めやすいという特徴があります。
しかし、治療のゴールは「歯の本数を元に戻すこと」ではありません。歯が入ったあと、その方がしっかり噛めて、飲み込めて、話せること。つまり、口腔機能が回復し、それが長く保たれることが大切です。
また、噛めるようになっても、食事の内容まで自然に変わるとは限りません。食べやすいものばかりを選ぶ習慣が続いていれば、いろいろな食品を少しずつ取り入れていく工夫も必要です。
インプラントにも、限界や注意点があります。骨や歯ぐき、全身の状態によっては適さない場合もあります。治療後は、ご自身の歯と同じように、あるいはそれ以上に丁寧なお手入れと定期的なメインテナンスが欠かせません。清掃が不十分だと、インプラントの周りに炎症が起きることもあります。将来、年齢を重ねてご自身でのお手入れが難しくなったときのことも見据えて、治療の計画を立てることが大切だと考えています。
おいしく食べる、話す、笑う
私は、歯科治療のゴールは、単に歯を治すことではないと考えています。
- 自分の口でしっかり噛める。
- 好きなものを、おいしく食べられる。
- 家族や大切な人と、同じ食卓を囲める。
- 食事をしながら、楽しく会話ができる。
- 人前で、歯を見せて笑える。
一見、当たり前に思えるこうした毎日を、できるだけ長く守ること。それが、歯科医療の大切な役割だと思っています。
食事は、栄養をとるためだけのものではありません。「これ、おいしいね」と家族と話すこと。久しぶりに会った友人と食卓を囲むこと。大切な人と笑いながら食べること。そうした時間そのものが、その方の人生や生活の質をかたちづくっています。
前回のブログでご紹介した、日野原重明先生の「口で噛んで、食べるのが、人間なんです」という言葉も、今回の東京宣言とつながっているように感じます。
インプラント治療も、そうした生活を取り戻したり、守ったりするための手段の一つです。
東京宣言と、かいり歯科クリニックが目指している医療
東京宣言を読んだとき、私たちが日頃大切にしていることと重なる部分が、非常に多いと感じました。
宣言が示しているのは、学会としての方針と理念です。そのうえで、当院が大切にしている考え方を、改めてお伝えします。
- ご自身の歯を、できる限り長く守る何よりも大切なのは、天然の歯を守ることです。むし歯や歯周病の予防と、定期的なメインテナンスを大切にしています。
- 歯を失った場合は、しっかり診査・診断する残念ながら歯を失った場合は、CTなどを用いて、骨や歯ぐき、噛み合わせの状態を確認します。
- 一人ひとりに合った方法を一緒に考えるインプラント、ブリッジ、入れ歯など、それぞれの特徴や負担、ご希望をふまえて検討します。
- インプラントは、選択肢の一つすべての方にインプラントをおすすめすることはありません。その方にとって最善と考えられる方法をご提案します。
- 治療後も、長く噛める状態を守る治療が終わってからが本当のスタートです。歯科医師と歯科衛生士が連携し、メインテナンスを続けていきます。
学会後、先生方との交流から
学術大会のあとは、私が所属している日本再建歯学研究会(IIRD)のつながりなどから、東北大学にご縁のある先生方との懇親の場に参加しました。
その中には、矯正歯科の勉強会で以前から交流のある先生、インプラントの勉強会で知り合った先生、別のインプラント関連の学会でご一緒している先生など、これまで別々の場所で出会った先生方がいらっしゃいました。偶然いくつものご縁がつながり、学会後の二次会をご一緒することになりました。当院で根管治療を中心に担当している小笠皓平先生も、一緒に学会へ参加し、この会にも加わりました。
学会後、日頃さまざまな勉強会・研究会でご一緒している先生方と。専門分野を越えた交流も、大切な学びの時間になりました。専門分野の異なる先生方と、日々の診療や症例、これからの歯科医療について率直に話せる時間は、学会の講演とはまた違った学びになります。さまざまな場所で学び続けていると、人とのご縁がつながり、その交流からまた新しい学びが生まれる。そのありがたさを感じた夜でした。
何年先も、おいしく食べ、話し、笑える毎日を
今回の学会で学んだことは、診査・診断、治療計画、実際の治療、そして治療後のメインテナンスへと、日々の診療に生かしていきます。
まずは、ご自身の歯をできる限り長く守ること。歯を失った場合には、その方に合った方法で噛む機能の回復を目指すこと。そして、その状態をできるだけ長く保てるよう、スタッフ一同で支えていくこと。この順番は、これからも変わりません。
何年先も、おいしく食べて、大切な人と話して、笑って過ごしていただきたい。その願いを胸に、私自身も学び続けていきます。
歯を失ったこと、噛みにくさでお悩みの方へ
「歯を失ったままになっている」
「最近、硬いものが噛みにくくなってきた」
「インプラント、ブリッジ、入れ歯のどれが自分に合うのか知りたい」
千葉市中央区・千葉みなとのかいり歯科クリニックでは、インプラント治療を含め、歯を失った方のご相談をお受けしています。まずはお悩みやご希望をお聞かせください。お口の状態を確認したうえで、それぞれの方法の特徴や負担、治療期間なども含めて、一緒に考えていきます。
診療時間・休診日はホームページの予約ページをご確認ください。
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院長 戸田智大
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